2024年から始まる新NISAへの興味関心はかなり高いと言われています。
しかし、「貯蓄から投資へ」と投資を推し進める一方で、実際には投資に踏み切れていない人が多数いることも事実です。
そこで、「投資をしようと思った人の心理」、「投資をしない人の心理」に着目し、その心理について金融や投資、行動経済学に詳しい立正大学教授の林康史先生にも参加いただき、アイフィス社内で座談会を開催しました。
この記事では座談会の様子を林先生の解説とともに紹介します。
\解説いただく先生のご紹介/
林 康史(はやし やすし)
立正大学経済学部教授
略歴:
大阪生まれ。大阪大学法学部卒。法学修士(東京大学)。クボタ、住友生命保険、大和アセットマネジメント、あおぞら銀行(職務経験は、輸出営業、原価管理、為替ディーラー、エコノミスト、ストラテジスト等)を経て、2005年から現職。華東師範大学(客員教授)、一橋大学(非常勤講師)、等。その他、官庁の委員会委員、評論活動等。著書・訳書は専門書の他、投資の心理についての一般書等、100冊ほど。
座談会参加メンバー
投資経験なし
Aさん/独身
新NISAの口座だけ開設
Bさん/独身
興味はあるが手続きで挫折
Cさん/独身
興味はあるが失敗が怖い
Dさん/既婚
各社比較しすぎて進めず
投資経験あり
Eさん/独身
株式投資とつみたてNISA
Fさん/既婚
つみたてNISA
Gさん/既婚
投資信託
投資する人、しない人の違いは?
まずは投資経験者に投資を始めた理由を聞きました。
Q1.投資を始めようと思った理由を教えて!
投資経験者は投資への好奇心から始めている人が多いようです。
続いて、投資未経験グループに「投資をしていない理由」をズバリ聞いてみました。
Q2.投資をしていない理由を教えて!
投資未経験者の意見をまとめると、この部分が大きなネックになっているようです。
1. 始めるための手続きをする時間がない
2. 商品をじっくり選ぶ時間がない
3. 投資したら大損しそうで怖くてできない
4. お金を貯めないと始められない
主に、時間がない、失敗が怖いなどが意見として挙がりましたが、彼らが抱く心理について、林先生に解説していただきました。
投資はとにかくまず始めてみることが大事です。投資のコツは、「長期・分散・低コスト」です。できるだけ長期の投資を考えるなら、1年いや1か月でも早く始めたほうがいいということです。
しかし、みなさんは「いつかやろう」とは思っていて、しかし、行動できない。その理由は、さまざまでしょうが、いくつか考えられます。
まず一つ目に、決断・行動の先送りをしてしまう人間の心理行動として「現状維持バイアス」が挙げられます。
熱湯にカエルを放り込むと(むごい実験ですね)、カエルはびっくりして湯から飛び出しますが、ゆっくりと高温になっていく湯に浸かっていると、そのまま茹で上がるというのと同じです。
行動に移るためのショックやきっかけが必要なのかもしれません。
二つ目は、「コントラフリーローディング」という心理が影響していることも考えられます。
フリーローディングは「負荷がないこと」ですから、それの反対(コントラ)という意味で、つまり、苦心して獲得したものをありがたがるという心的傾向をいう言葉です。
すぐにやれるはずのことも、あえて時間を費やして入念に調べてしまい、行動を遅らせているのかもしれません。
三つ目は、「認知的不協和」です。2つの反する(対立する)状況があったとき、人はどちらかをなかったことにする、つまり自分をごまかすように動きます。
「自分には投資が必要」と、「準備や勉強が大変」「損する人もたくさんいる」といった二つの反する事柄があると、とりあえず「自分には投資が必要でもない」と自ら思おうとしてしまいます。
そのため、未知の世界への扉を押すきっかけを自らなくしてしまうのです。
また、みなさんには「やらないこともリスク」むしろ、「やるリスクよりもやらないデメリットの方が大きい」ことに気付いてほしいですね。病気やケガに備えて生命保険には当たり前のように加入しますよね?
しかし、「将来のためのお金を増やす」という備えには、投資のリスクを恐れるあまり二の足を踏んでしまう。そのため、まずは投資で生じるリスクに対する備えと整理が必要です。
よくわからない、時間がないという意見については、「長い人生において大事な物=財産」なのに、財産のために投資の勉強や投資にかける時間が取れないというのは言い訳ですね。
このままずるずるとしているとよくないと思い直してください。まずはやってみることが大事です。
何よりもまず、「自身のマネーマネジメント」が必要ということです。
なるほど!表面上は「忙しい」「時間がない」「失敗が怖い」などすぐには解決が難しそうな理由に見えますが、一つひとつの問題点を紐解いていくと、自身の心が生み出した「現状維持バイアス」などに縛られているということがわかりますね。
投資への不安と期待はある?
続いて、投資に対しての不安と期待を聞いてみました。
Q3.投資に対する「不安」と「期待」はありますか?
◆不安について
◆期待について
不安については、近年のインフレや不安定な世界情勢が投資に影響を及ぼさないか?という声が多く聞かれました。
投資への期待は、「元本が保証されていれば」「ちょっと増えたら嬉しい」という安定重視の人が多かったです。
みなさんの回答から、「損をしたくない」という不安な気持ちと、少しでも増えてほしいという期待が感じられますね。
ここで一つ例を挙げましょう。
Q.急遽100万円が必要になったあなたは、AとBの株どちらを売りますか?
A:50万円で買い、その後値上がりして100万円になった株
B:150万円で買い、その後値下がりして100万円になった株
多くの方はAと答えるでしょう。Aの株は50万円の利益を生んでいます。逆にBの株を売ってしまうと50万円の損失が“確定”してしまう。
Bの株はまだこれから値上がりするかもしれないから…と期待をしており、「損をするのはなんとしてでも避けたい」という心理が働いているのです。
この心理を「損失の嫌悪」と言います。損を嫌うあまりに下がり続ける株を持ち続けて、結果としてさらに損失を膨らませる人が多くいます。
そのため、まずは、「漠然とした不安を明確な不安に変える」ための思考の切り替えが必要です。
例えば、「いくらまで下がったら売る」「いくらまで儲けたら売る」など、自分の売買ルールを決めておくのです。
こうして決めたルールを元に運用すると、常に運用状況を見る必要もありませんし、大きな損をせずに順調に資産を増やして行けるのではないでしょうか。
自動売買設定をしておけば、常に値動きを監視する必要もなくなります。
世界情勢やインフレなど不安になる要素は多くありますが、どんな状況であれ「お金を増やす」という目的に向かってルールを決めて行動をすることが大事です。
「損失の嫌悪」のお話、身に覚えがある方も多いのではないでしょうか。投資をするうえでしっかりルールを決めておくことで、損失に対する心の備えも変わるのですね。
投資に対する意識に変化は出てきた?
その後も座談会は大変盛り上がり、たくさんの質問や意見が交わされました。
残念ながら、記事では全てを紹介できないので割愛しますが、参加メンバーと林先生の話を聞いているうちに、投資未経験者の気持ちにも変化が生まれてきたようです。
Q4.みなさん投資をやってみたいですか?(投資経験者は今やっている投資以外にやってみたいか)
投資に消極的だった人も、座談会での意見の交し合いを通じて投資への意欲が高まってきた様子です。
さらには驚くことに、未経験者にもかかわらず、4人中3人がなんと株式投資もやってみたいとの前向きな回答も!
Q5.新NISAには興味がありますか?
新NISAの利点は知っていて興味はあっても、始めるための口座開設や手続きの部分で動き出せないという意見が複数聞かれました。
この初動部分のハードルが下がると、もっと新NISAに踏み出す人が増えそうですね。
座談会を通じて投資への気持ちは前向きになったものの、始めるきっかけが難しいものです。
最後に、どんなきっかけがあれば投資をしたいと思うかを聞いてみました。
Q6. どのようなきっかけがあれば投資をやりますか?
全く分からない中で一歩を踏み出すのは勇気と覚悟がいりますね。だからこそ、インパクトのあるきっかけが行動を促すのかもしれません。
投資を始めるには、まず「自分自身」を知ることから始めることが大事です。
自分はどんな性格なのかを整理して、何のために投資をするのかという「目的」をきちんと立ててください。
また、どのくらい投資にかけていいのか、という目安としてリスク資産比率という考え方があります。
これは「100-年齢=リスク資産比率」という計算方法で、30歳なら70%(安全資産30%)、50歳なら50%(安全資産50%)といったように、年齢が若いほどリスクを取った投資に当てられる ことがわかります。
なるべく早い年齢から投資をスタートさせることのメリットを理解し、ぜひ投資を始めてみてください。
林先生に解説頂いた通り、しっかり目的を持って投資をすることが大切ですね。
まとめ
座談会では投資している人としていない人同士で意見を出し合い、知らなかったことや気付きを得られたようです。
開催後のアンケートでは、ほぼ全員が「投資に対する意識が変わった」と回答してくれました。
「座談会」という機会を設けたことで他の人の考え方や状況を知ることができ、また、林先生の解説がついていて、とても勉強になり刺激にもなったそうです。
そして、今後の投資行動については、具体的な行動目標が多く寄せられ、ほとんどの人が3ヶ月以内には始めたいと前向きな回答がありました。
投資をしない理由は人それぞれですが、興味はあるものの投資を始めるための基礎教育の場がない、リスクに対する知識不足であと一歩を踏み出せない、といった方は多くいるかと思います。
これらは知識を得る機会があれば解消される部分であり、金融教育の機会がいかに重要であるかを物語っています。
アイフィスでは、このような投資の知識格差を解消すべく、継続して社員に向けて金融リテラシー教育を実施してまいります。